愛犬には健康で長生きしてほしい!
飼主であれば誰もが思っていることです。
健康寿命こそ長くしたい。。。そして(最後は)大往生。
※“大往生”:安らかに死ぬこと。少しの苦しみもない往生。また、立派な往生。(広辞苑より)
我々の愛犬は(ヒトも、ですが)そこに向かっているのでしょうか。
2019年12月に出版された「獣医師が考案した長生き犬ごはん」の著者である、獣医師の林美彩先生をお招きし、犬の手作りごはん専門のレシピサイト「わんわんシェフ見習い中」を運営する(株)コラビー代表の瀧谷がお話を伺います。
(全2回の1回目 : #2を見る)
第1回:Quality of Lifeに向けた獣医師の仕事の在り方
未病のケアと末期のケア
瀧谷:林先生は、往診専門動物病院「chicoどうぶつ診療所」を開院していらっしゃいます。
どれくらい前から「chicoどうぶつ診療所」での活動をなさっているんですか?
林:「chicoどうぶつ診療所」は設立して2年ほどです。
5~6年ほど動物病院の勤務医やサプリメント企業での仕事をしたのちに開業しました。
瀧谷:「chicoどうぶつ診療所」のwebサイトを拝見させて頂いたのですが、往診専門なこともありますが、特色のある動物病院だな、と思いました。
改めて、お仕事について教えていただけますでしょうか。
林:私の仕事は、大きく“病前”と“病後”に分けることができます。
“病前”に関しては予防医療的な話として「病気にならないための身体づくり」が一番大事だと考えていまして、そのための支援やアドバイス、働きかけをしています。
一方、“病後”に関しては、病気等が進行して動物病院では治療がなくなって見放されてしまった犬のケアをしています。
どちらも往診専門でやっています。
「飼主と愛犬の最期の生活」のお手伝い
瀧谷:二つ目の「動物病院の治療からは見放されてしまった犬のケア」、こちらのお話から伺わせてください。
これはシビアといいますか、とても大変なお仕事ですよね。
どのようにケアを進めるのでしょうか?
林:はい。この仕事は、先ずは飼主さんの心のケアから入ります。
そこからペットのケアに入るながれです。
瀧谷:飼主さんの心のケアっていうと・・・
やっぱり、話を聞いてあげるっていうことが大事なんでしょうか。
林:そうです。自分の愛犬が「動物病院としてもう治療がない」と言われてしまった飼主さんですから、心配や絶望、やりきれない気持ちを抱えていたりします。その飼主さんが話したいことや聞きたいこと、不安、フラストレーションも含めて、時間がかかってもできるだけ全て聞くようにします。
瀧谷:時間がかかっても?
林:はい。そもそも動物病院だと、病院によって多少の差はあるとしても、獣医師は飼主さんとじっくり話す時間がなかなか取れないんです。診察時間は限られていて、次に診察を待っている飼い主さんがいるので獣医師の先生としては早く切り上げなければならないことが多い。
飼主さんからすると、聞きたい、話したいけどできない、そういう状態のまま帰らざるを得ない飼い主さんが多くいらっしゃるんです。
私は、往診の場合は1日1件と決めているので、ご自宅でじっくりお話を伺うことができるんです。
瀧谷:往診っていうのはじっくり飼主さんと向き合う手段でもあるんですね。
林:なによりも、飼主さんの気持ちが和らぐと、それだけで結構ペットの顔つきが変わるんですよ。
人間のお子さんと同じで、もっと言えば人間以上に彼らは素直なので、飼主さんのストレスや心配、焦りが伝わってしまうんですね。
じっくりお話を聞きつつ、少しでも飼主さんが前向きに取り組めるようにする。それが先ずは重要なんです。
瀧谷:なるほど。
私もこういった仕事をしているので、犬との生活のベテランというか専門家の知り合いが何人もいます。
そういった方々の愛犬が亡くなるとき、場合によっては大変な介護をされているケースもありますが、彼らはそのような場合でもどこか堂々とされているというか、大変であっても穏やかに愛犬との最後の生活に取り組めているというか、そういった姿を拝見して感心することがあります。「飼主さんが前向きに取り組めるように」というお話を伺って、彼らの振る舞いをイメージしました。
犬(ペット)自体のケアはどのようなことを行うのですか?
それこそ、動物病院では”治療がなくなった“といわれている状態だと思うのですが。
林:私が行うのは代替療法がメインです。
身体に負担がほとんどかからないような方法です。
(犬への)マッサージや鍼灸も行いますし、
ドイツの自然療法のホモトキシコロジーもメインでやることが多い療法です。
瀧谷:ホモトキシコロジーってあまり聞きなれないのですが、デトックスを促す療法っていう理解であっていますか?
林:そうです。
身体にとって有害な毒素(ホモトキシン)を排出していきましょうっていうものなんですが、使っているとワンちゃんの調子がよくなることが多いので。
有害な毒素っていうのは、粗悪な食材をたべていたら場合の添加物もそうですし、食とは別の、例えば柔軟剤を使ったタオルが原因になることもあります。ストレスや老化などでデトックス自体がうまく働きにくい子もいるので、ホモトキシコロジーを使って排泄を促すことで、病態を改善していくものになります。
瀧谷:どうやって排出を促していくんですか?
林:製剤が何種類もあるのですが、その中から何種類か選んで配合して、注射器で身体に入れたり、あるいは口から飲んでもらったりします。
瀧谷:排出を促す製剤を配合するってことですね?
配合ってことは、個々に合わせて配合をするってことですか?
林:はい。西洋の漢方って言われていたりするのですが、
個々のワンちゃんによって配合を変えますし、改善したかどうかを見ながら配合を調整していきます。
瀧谷:漢方薬みたいなイメージですね。
林:はい。似たイメージとしては、ホモトキシコロジー以外に、ハーブも活用します。
瀧谷:ハーブはどういう時に使うのでしょうか?
林:ハーブは精神安定だったりとか、お薬をあまり使いたくないけど症状をちょっと抑えたいときに使ったりします。
瀧谷:そうか、病院として“治療がない”という、結構きびしい状態のワンちゃんなわけですが、薬は飲んでいるわけですよね。
林:はい、薬は飲んでいますね。“治療がない”とはいっても動物病院から薬が処方されているケースもあります。
お薬は症状を抑えるだけのものになりますので、症状が起きている根本原因の立て直しを代替療法でやっていきます。動物病院から出ている薬との合わせ技ですね。
瀧谷:あと、webサイトを拝見すると「丸山ワクチン」とあるのですが。
これは人間用の丸山ワクチンと同じですか?
林:同じです。
元々は結核の治療に作られた丸山ワクチンです。
瀧谷:人間のものと同じであれば、私はたまたま丸山ワクチンっていう名を知っていますが、あまりなじみのない方も多いと思います。
ガンの治療に有効といわれながらも、なぜか国の認可がおりず、、、みたいな話のあるワクチンですよね?
林:はい。それです。
1年くらい前にテレビでまさに国の認可がおりるかもしれないみたいな番組がやってました(笑)。
丸山ワクチンって、免疫の賦活化作用とコラーゲンを増やしていく作用があって副作用もほぼないので、腫瘍の子に使いやすいんです。シニアの子にも使いやすいですし。
※丸山ワクチンに興味のある方
●丸山ワクチンとは:「丸山ワクチン公式サイト」
●世界仰天ニュース「国が認めない丸山ワクチンの謎」
瀧谷:丸山ワクチンって普通に手に入るワクチンなんですね。それも知らなかった。
林:ゼリア新薬さんから出ています。アンサー20っていう名前で出てるんですが…多分ゼリア新薬さんからしかでていないんじゃないかな。
それを使うんです。
瀧谷:そうなんですね。市販されてて、使えるんですね。
林:使えるんです。
そして結構安定するんです。ワンちゃんによってはびっくりするくらい体調が安定します。
あと、QOL(Quality Of Life)が維持できるんですね。
瀧谷:丸山ワクチンについては、、、国か何かの陰謀に巻き込まれるから書かない方がいいとかありますか?
林:大丈夫です。(笑)
ゼリア新薬で売ってますし。
瀧谷:そうですね。私の偏ったネットでの知識がまずいですね(笑)
すみません。。
丸山ワクチン、ホモトキシコロジー、ハーブ、マッサージや鍼灸、
いろいろな代替療法でケアしていくわけですが、
厳しい状態のワンちゃんへのケアなわけで、
最後は、、、死んじゃう、亡くなっちゃうわけですよね?
林:そうです。
ただ、その亡くなり方が穏やかになるように、亡くなるまでの間をワンちゃんがワンちゃんらしく、自然に過ごせるようにケアをするわけです。
瀧谷:ケアはいわば、亡くなるまで続くわけじゃないですか。
林:そうですね。
途中で飼主さんから連絡が来なくなってしまうことがない限りは、亡くなるまでお付き合いします。
瀧谷:本当に大変なお仕事ですね。
林:グっとくることが多い仕事ですね。
最後、飼主さんから「ありがとうございました」と言っていただけたときに、「あぁ、ワンちゃんのケアと飼い主さんの心のケア、できたのかな」と思うことができます。
瀧谷:私も愛犬に、なんとか“いい死に方”をさせたいと常々思っています。
犬の寿命はこの10年で0.7歳も長くなったそうです。ただ、辛い亡くなり方をするケースは減っているのか増えているのか。
私が以前飼っていた犬で最も長生きした犬は、かなり長生きしたんですが、亡くなる直前はご飯は食べれず、最期は排泄もできなくなって苦しそうに亡くなりました。
林:以前、西洋の動物病院で見てきた経験でも、最期にやせ細って骨と皮だけになり、血便ひどい、嘔吐もひどい、毛もバサバサ、言い方は悪いのですが生きるしかばね状態、そうなってしまうケースはたくさん見てきました。
自然なかたちで死を迎えてもらうにはどうしたらいいか、そう思ってケアの仕事に取り組むようになりました。
瀧谷:どんな表現が適切なのかわかりません。死ぬまでのQuality of Lifeというか、Well Dyingというのかわかりませんが、飼主と愛犬の最期の生活のお手伝いをする仕事だ、と感じました。
未病段階でのケア
瀧谷:林先生のお仕事は大きく「病前」と「病後」に分かれているとのことでしたが、
「病後」の話を伺ってきましたが、もう一方の「病前」についておしえてください。
林:はい。
お話しした「病後」の代替療法の仕事が実際は多いのですが、
末期のワンちゃんを前に飼主さんが「もっと病気になる前のケアをしてあげたかった」とおっしゃることが珍しくないんですね。
なので、病前、いわゆる“未病段階”でのケアを広げていきたいと思って取組んでいます。
瀧谷:そうだったんですね。
どんなケアを行うんですか?
林:基本的には日常生活で見直すべきところ、つまりは食事や生活環境などで改善すべきところを診断していくことから入ります。
瀧谷:これも、往診専門だからできることですね。
動物病院では、飼主さんと愛犬の生活環境を(口頭で聞くことはできても)ダイレクトには見れないですよね。
林:はい。ご自宅に伺うことで分かることは多いです。
芳香剤がすごいご家庭とか、柔軟剤の匂いがかなり強いタオルにくるまれているワンちゃんとか実際にいます。
そういうのも害になることがありますよって指摘させていただくわけです。肝臓を傷めちゃうことがあるからって。
食べているおやつについても、病院で飼主さんにお話を伺うと「えーっと、何食べていたかな」みたいにぼやっとすることがあるんですが、ご自宅にいけば実際にあるじゃないですか。
あとは、眼の悪いワンちゃんや足腰の弱ったワンちゃんの場合、段差が大きな負担になったり新たなケガの元になってしまう場合がありますので、スロープの設置をお薦めしたりします。
瀧谷:そういった生活環境や習慣のアドバイスをするわけですね。
予防医療と考えるとワクチンや予防接種も往診で提供したりするのでしょうか?
林:基本的にはワクチンや予防接種は一般の動物病院でカバーできちゃうので、依頼があればやるかたちですね。
瀧谷:ということは、未病の部分に関しても、飼主さんには動物病院は動物病院として普通にかかりつけの動物病院を利用していただきつつ、プラスアルファの部分として利用いただくかたちなんですね。
林:そうです。
瀧谷:“食ベもの”についてもチェックして指導やアドバイスをするんですか?
林:もちろんです。毎日の“食”が身体を作っていくので、“食”はケアの中心でもあります。
ご自宅に行ったら必ずフードのパッケージを見せてもらったり、パッケージがなければメーカや名前を聞いてその場で調べたりします。
瀧谷:フードに関して、粗悪なもの使われているフードであればもちろん改善の対象だと思うのですが、
そうでない場合でもワンちゃん個々の状況に合わせてフードを変えることをアドバイスすることはあるのですか?
林:あります。
その子が持っている病状があれば病状に応じてもちろん変わりますし、
病状がなくてもその子の体質として「熱がこもりやすいから、このタンパク源じゃないほうがいい」などがあります。
瀧谷:!?・・・多くの獣医さんは、そういう知識はないですよね??
林:フードのことを気に掛ける先生はあまり多くないと思います。
瀧谷:病状があるから、療法食という指導はすると思うのですが。
林:はい。病状があっても療法食までいかない場合も結構ありますし、
個々の状況や体質をしっかりみてお薦めをすることが大事です。
瀧谷:個々の状況や体質を見極めて、ですか。
林:はい。
例えば、皮膚病の子には低アレルゲンのフードが良いということで鹿やラムのフードを薦められることが多いのですが、もしもその子が皮膚病といってもカサカサで熱を持っちゃっている場合には、鹿やラムを与えると余計に熱を持って痒みがひどくなるので、「違う素材のフードにしましょうか」などお伝えします。
一方、ジュクジュクした皮膚のトラブルを抱えている子でも体が冷えているタイプの子に馬肉をあたえると余計に冷えてしまうので、「体を温めるものを与えて、流していきましょう」とお話ししたりとかします。
個々の体質をしっかり見ることと、食材の特性を見極めることが重要です。
瀧谷:すごいですね。
そうすると、個々の状況に合わせて、
代わりにお薦めできるフードとかも探してあげないといけないわけですね。
林:はい。
なので、自分で信頼してお薦めできるフードはエクセルで整理してあったりします。
瀧谷:あ、経験の中で蓄積してきたリストがあるんですね。
林:はい。
ただ、信頼できるフードって値段が高かったりするんですよね。
瀧谷:やっぱり、そうなんですね。
ところで、フードで以前から気になっていたんですが、
犬種別に分かれているフードってありますが、犬種でそんな違うものですか?
どれくらい意味あるのかな、と。
林:正直、そんなに変わらないですね。
売るための謳い文句としては意味があるかもしれないですけど。
あと、シニア用とか年齢別もあまり意味ないと私は思っています。
瀧谷:そうですよね。
・・・年齢別もあんまり意味ないんですね。
林:あんまり、、、です。
逆に「?」と思うものもあります。
シニア用を謳っているフードってタンパク質が抑えられちゃっているものが目立つんですけど、シニアはしっかりタンパク質を摂ってもらわないと筋肉が落ちちゃうわけです。「だったら、分けんなよ!」と思います。
瀧谷:手作りごはんを薦めることもあるんですか?
林:もちろんあります。
瀧谷:どういう場合に手作りごはんを薦めるんですか?
林:飼主さんに余裕があるときですね。時間的にも。
「がんばれそうですか?やれそうですか?」と聞いてみて、「大丈夫です」「挑戦してみます」ってときは、やり方をアドバイスします。
あとは、フードが高価で続けるのが辛いって場合などにも薦めます。人間のごはんを作るついでに作れたりするので。
ただ、いずれの場合もトッピングからはじめてもらうなど、できるだけ手作りごはんのハードルを下げて始めてもらうようにします。また、飼主さんのストレスにならないことも前提ですね。
瀧谷:フードよりも、手作りごはんの方が優先度は高いですか?
林:飼主さんができるのであれば、手作りごはんの方が優先度高いです。
瀧谷:いいですね。うちのサイトにとって嬉しいコメントです。
飼主さんが手作りごはんをあげている場合、どんな手作りごはんをあげているかの内容チェックをするんですか?
林:しますね。
最近だと、サツマイモばかり使いすぎて太らないか心配な例もありましたし、「最近、愛犬が太りました!」っていうのでレシピを確認すると、炭水化物が多すぎたり、何て言うのもありました。
「ワンちゃんが下痢しました」って連絡を頂いてチェックしてみたら、タンパク源がその子の体質にあっていなかったり。ワンちゃんの身体に何か変化が見られた場合は特にチェックしますね。
瀧谷:ありがとうございます。
「病前」のケアの話と、先に伺った「病後」のケアのお話を伺ってきて、
林先生の獣医師としての特徴というか、”獣医師としての在り方“みたいなものが分かりました。
次回は、最後に伺った「手作りごはん」に関連して、林先生の著書「獣医師が考案した長生き犬ごはん」を絡めつつお聞かせいただければと思います。
また、林先生がおっしゃっているように、“ワンちゃんの個々の体質に合わせること、そして食材の特性を見ること”の重要性に納得しつつも、私も含めて多くの飼主がそもそも「自分の愛犬の体質はどのようなものなのか」が見極められません。このあたりについてもヒントを頂ければと思っています。
(全2回の1回目 : #2へ続く)
対談者
<写真:右>
林 美彩 (獣医師 chicoどうぶつ診療所 代表)
毎日の食べるもので体が作られていくという両親の教えのもと、大学時代に愛犬・茜を迎えたことをきっかけに、手作り食を学ぶ。
大学卒業後は、代替療法・西洋医学療法の動物病院に勤務し、その後サプリメント会社での相談応対に従事。西洋医学と代替療法の良いとこどりをした治療、病気にならない体作り、家庭でできるケアを広めるため、2018年3月に往診専門動物病院「chicoどうぶつ診療所」(東京)を開院。現在、全国より数々の相談を受けている。
獣医保険ソーシャルワーク協会所属。
<写真:左>
瀧谷 知之 (株式会社コラビー 代表取締役)
トーマツ コンサルティング(現DTC)を経た後、ツタヤオンライン、やTSUTAYAなどで経営企画/経営戦略室長として、ネット事業推進、事業戦略立案や新規事業に従事し、独立。
現在までに上場企業含め9社の代取や取締役を経験している。
2010年3月に(株)コラビーを設立し、代表取締役に就任。 コラビーにて国内最大級の
”犬の手作りごはん専門”サイト「わんわんシェフ見習い中」を展開中。
ペット栄養管理士。